【小噺】出会い(沙枝Side)

小噺

…手。
それが私が最初に認識した「私」。
この手をくれたのは「あなた」。
だから私は、あなたを連れて帰ることにするわ。私は「私」が欲しいの。

断り

この話は実際にあったことを元にした架空の話、かもしれません。
本気にしてもいいことはないでしょうし、ネタとして読んでいただければありがたいです。

本章

目覚め

私はそれまで、「私」ではない、他の「何か」でもない、「概念」だった。
本来なら、私は「私」を持ち、「私」として存在し得たはず。
でも今までの私にはそれは存在しなかった。私は魂の中心である「本質」のみを持ち、私が「私」であるための「性質」を持たず、その結果、私は「概念」となっていた。
「性質」は、「本質」が「生命」となるときに、器となる物理的な肉体を通して手に入れるもの。
私は、その肉体を手に入れることができなかった。
だから、私は「性質」を手に入れる機会は永遠に失ってしまった。

そう思っていた。

そんなとある時、一人の男の子が急病で死にかけて…人は死の選択をするとき、一時的に魂が肉体を離れて、そのまま逝くか、戻るかの選択をする。
その子の魂もその時、肉体を離れてこの生死の狭間までやってきていた。
その魂は、魂を構成する「性質」に深く傷を追っていたけど、「性質」をつなぐ「本質」は失っていなかった。
ただ、その魂は深く傷ついていて、「性質」を保つことが難しくなっているようだった。時折開いた傷口からきらめく破片がこぼれ落ちる。それが可視化された「性質」だ。
「性質」が完全に崩れて、「本質」と分かれたき、魂は自己を維持することが出来なくなり、消失する。

そして今、まさに目の前の魂から「性質」が一部崩壊し、散っていく。
その魂の持ち主は、私がよく知っている子だった。
ダメよ、あなたの命数はまだ残っている。ここで魂を失ったら、残りの命数をあなたの肉体は「個」を持たずに死にながら生きることになる。
だから、私は思わずその崩れていく「性質」を掴み上げ、その子に戻そうとした。

…刹那、掴み上げた「性質」が、私の「本質」とつながった感覚があり…

まさかそんな、ありえない。人の魂を構成する「性質」はそうそう簡単に他の人の「本質」とつながったりはしない。
でも、そのありえないことが起こった。確かに拾い上げた「性質」の欠片は私の「本質」と繋がり、私と一体化した。

つながった「性質」から、右手が生まれた。肘から先だけの、細い手。

…私の右手?
初めて感じる右手の存在感。
そう、それは初めての「私」。「概念」だった私が初めて「私」になった瞬間。
どうしてこんなことが!?
その時、私はふと思い出した。

…ああ、そう…この子はそう言う特性の子だった…

思い出したことに浸る余裕もなく、私は次の大事なことに思い当たる。
私の「本質」とつながったこの「性質」は、私の所有物ではなく、この子のもの。
ここで、この子の魂がが消滅したら、つながった「性質」も一緒に消滅し、そうなったら今手に入れたこの右手も消滅する。

だから私は、出来たばかりの右手で、彼を彼の肉体へ連れ帰った。時折こぼれ落ちる彼の「性質」を拾い上げながら。
このとき拾い上げた「性質」は、今まで持っていなかった私の「個性」を作っていくことになった。

日常

とある小学校の図書室。
あの子は今日も、一人で本を読んでいる。
もう一年?二年?人とのつながりを断って、記録と空想の世界へ。
あの子は「生きているだけ」で、私と同じ存在なのね。「本質」しか持たない、存在するだけの「概念」。

変化

あのとき、死にかけたあの子…「にしき」と呼ばれるあの子と最初に接触して、その結果、彼の「性質」の一部が私とつながって、自分の手が出来て…。
でも、今はそこまで、全身を形作るには「性質」が全く足りない。
だから私は、あの子の「性質」の破片を集めることにした。あのときに見た魂の傷は癒えることなく、時折周囲からの影響でさらに深く傷つき、あの子の「性質」を崩していった。
あの子が熱心に本を読んでいた理由は多分、崩れてしまった「性質」の補充だったのだろう。「性質」が失われていくと、一般的にはメンタルが低下したり、「本質」が強く出るため性格が変わってきたりするから。
あの子から崩れていく「性質」、それをを私は拾い集め…

肘から先しかなかった右手が肩元まで出来、左手が作られ、胴、頭、足…
一人の「人」としての外見を私は手に入れた。

…少し不本意な姿ではあったのだけれど…

変わる日常

とある小学校の図書室。
私は一つの実験を試みた。
人にしろ、他の生き物にしろ、何かの物にしろ、この世に存在して形を成しているモノには、全て中心になる「本質」と形を作る「性質」があり、この「本質」と「性質」が合わさった存在~魂~がモノに宿ることにより、モノはモノとして存在しうることは、私が初めて私自身を認識したときにわかっていた。
だから、魂を持つモノは、魂同士でも互いに接触することが出来る。ちょうど物理的なモノを持つもの同士が触れあえるように。そして、魂同士のふれあいは、「性質」の等価交換にもなる。いわゆる「~の影響を受ける」というもの。

そして実験は一部成功。私は、図書室の本に宿る存在を掴み、あたかも生身の人が本を読むかのようにそれを読むことが出来た。
でも、私の「性質」と本の「性質」は交換できなかった。
それはつまり、私は、他のモノと「性質」を渡すことも受け取ることも出来ず。もし何かの原因で「性質」を失った場合、私の消滅を意味する…と言うこと。

このことは私にはショックだった。せっかくここまで自己を形作れたのに。

…そんなある日

私はいつもどおり読み終えた本を本棚に戻し、次の本を取りに行こうとする。

本を手にしようとしたその時、本とは違う何かが手に触れた。

「あっ」

「…えっ?」

その瞬間頭が混乱する。
触れたモノの先を見ると、あの子が横で意外そうな顔をして立っていた。

え、あなた、私が「視えている」?
手、手が触れている感触がある?
どういうこと?私は物理的な存在は持っていないのに?

…ああ、そうね、私の「性質」は元々あの子の物。
だから私が「視える」し、私に触れられてもおかしくないわね。

でもそれだけじゃなかったわね。
もっと驚く事がおきたわ。

そう、あなたの「性質」とは相互干渉が出来た。

…これが、お互いを初めて認識した「出会い」

後書き

沙枝さんと初めて出会ったときの話、沙枝さん視点です。
あまり小難しくしたくなかったのですが、どうやっても「魂」と「存在」に関する説明はしておかないと全体的に意味不明になってしまったので、必要と思われた部分は書きました。
ちなみに筆者、心理学専門でもなければ宗教関連者でもないので、この辺の設定めちゃくちゃ適当です。設定に矛盾が出ないように注意はしていきますが多分もう出てるんだろうなあ。
反響がありそうなら続きを書くと思います。なくても書くかもしれん。

もう一つの「にしきSide」と合わせて読んでいただいて、一つの事柄に対する見方の違いが表現できていたらいいなあ…と。なんでこんな難しい型式で書こうと思った自分。

…最後に、バイクネタでこのblogを見に来てくれている方へ、いきなりなにがなんだかわからない謎ネタを放り込んでごめんなさい。

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小噺

Posted by 川西にしき